オペラの原点:バロックオペラの楽しみ

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ヘンデル・オペラの魅力:ロデリンダ、ロンバルディアの王妃

これから、暫く、自分自身が過去に歌ってみたバロックオペラのアリアについて書こうと思います。

さて、タイトルのオペラ『ロデリンダロンバルディアの王妃(Rodelinda, Regina de' Longobardi)』から始めたいと思います。

この作品は、ゲオルグ・フリードリッヒ・ヘンデル(1685-1759)がイギリス国王ジョージ一世をパトロンとする王室音楽アカデミーで活躍していた時代の作品(1724)で、ヘンデルの当時の大ヒット作のひとつです。

シーズン中の公演回数は14回に上り、シーズン終了後も計16回リバイバル公演されました。脚本はNicola Francesco Haym (1678 -1729)。 Antonio Salvi (1664–1724)の作品を元にしています。

1714年、イギリス王室は、アン王女がなくなると、ドイツよりハーノーヴァー選帝侯をイギリス国王ジョージ一世として迎えました。ヘンデルは、以前、イタリアでの遊学からドイツへの帰国後、一時的にハーノーヴァー侯の宮廷楽長を務めていたことがあり、これはヘンデルにとって一大転機となりました。

かつて仕えた王様に、イギリスで再び仕えることとなったヘンデルは、中断していたイタリア・オペラの作曲に再び熱心に取り組み始め、数々の名作を生み出しました。その頂点作として他に『エジプトのジュリオ・チェーザレ』、『タメルラーノ』があります。

このオペラの粗筋は以下です。

紀元6世紀頃、ロンゴバルド(ロンバルディア)王国の王都ミラノの宮廷で、暴君グリモアルドは、フン族討伐に出て討死した前王ベルタリードの妻ロデリンダに結婚を迫っていました。しかし、ベルタリードは死んではおらず、その頃にはフン族の衣装に身を包み、密かにミラノに舞い戻っていました。

そして、ベルタリードはロデリンダとの再会を果たしますが、グリモアルドに見つかり投獄されてしまいます。その後、妹と元部下ウヌルフォの手引きによりベルタリードは獄より逃れます。一方、グリモアルドは腹心ガリバルドに裏切られ、殺されかかりますが、ベルタリードによって命を救われます。

ベルタリードの寛大さに心打たれたグリモアルドは、自らの罪を悔い改め、王国とロデリンダをベルタリードに返すと誓います。

君主の寛大さを讃える典型的なオペラ・セリアの物語展開となっていますね。

さて、次に紹介するのは、敵役であるグリモアルドのアリアです。

第二幕第四場。

ヒロイン・ロデリンダは、グリモアルドの求婚を受け入れる条件として、ベルタリードとロデリンダの子であるフラヴィオを、彼女の前で殺すよう伝えます。前王ベルタリードの部下だったウヌルフォは、グリモアルドに美徳(フラヴィオの助命)を勧めますが、腹心であるガリバルドはフラヴィオを殺し、ロデリンダとの婚姻を急ぐことを勧めます。

グリモアルドは、前王の子を殺し、王位を簒奪した暴君との誹りを受けるであろう良心の呵責と、ロデリンダへの愛との狭間で、心がゆらぎ、その心情をアリアに託します。

(グリモアルド)
もうよい、徳の声など
思う心は重んぜず、もしは、聞き入れることはなし。

囚われ人(びと)なる我が心根は苦しみの内にあり、
さりながら、そなる鎖は麗しく、
放たれるを求めず。
心は悲しみ、病み臥し、
さりながら、彼(か)の病はかくも好まし、
安らかなるを希(こいねが)わず。

(Grimoaldo)
Non più! Le voci di virtù
Non cura amante cor, o pur non sente.

Prigioniera ho l’alma in pena,
ma si bella è la catena,
che non cerca libertà.
Mesto, infermo, il cor sen’giace,
ma il suo mal così gli piace,
che bramar pace non sa.

グリモアルドは、自らの非道な行いに、苦しみ、悩み、完全な悪にはなり切れない人間として描かれています。そして、ヘンデルは、悪役であるグリモアルドに極めて美しいテノールのアリアをいくつも歌わせています。テノールである私としてはお勧めのオペラです。

参考:Kurt Streitの歌声でお楽しみ下さい。